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知らないと大損する!? むずかしくない 不動産契約の話

中古マンションを購入後「引き渡し前に地震や火災が発生!」修復費用は誰が負担する?

中古マンションを購入後「引き渡し前に地震や火災が発生!」修復費用は誰が負担する?

知らないと大損する!?
不動産契約で陥りがちな落とし穴を、どこよりもわかりやすく解説する連載です。

今回の相談者は、夫と幼稚園に通う子どもがいる主婦のアズサさん(仮名)。今、築20年の中古マンションを購入し契約を結ぼうとしていますが、「実はちょっと心配ごとが……」と、弁護士のユウキ先生のもとを訪れました。

さて、どんな相談なのでしょうか。

登場人物

相談者"

アズサさん(32歳)
夫と幼稚園に通う子どもの3人家族。夢のマイホームに住むことを日々楽しみにしている。中古マンションの購入を決め、今、契約を結ぶ段階。

弁護士"

ユウキ先生
不動産の揉め事解決を得意としている弁護士。不動産に詳しくない人にもわかりやすい説明で人気。


契約締結後に地震で壁に亀裂が発生!売り主は直してくれるのか?

アズサさんのママ友が中古マンションを購入し契約をしたのですが、引き渡しを目前に起こった地震で壁に亀裂ができてしまったらしいのです。

「もう購入する約束をしたから、修復費用も買い主が払うの?」と不安になっている友達を見て、「自分のマンションの契約は大丈夫なのだろうか」と心配になり、ユウキ先生に相談に来たようです。


今日購入を検討している中古マンションの契約書をもらってきたのですが……。ママ友が数か月前に中古マンションを購入するため契約を結んだ後、引き渡しを目前に起きた地震で壁に亀裂ができてしまったみたいで。この場合、もう買う約束をしたのだから、修復費用を買い主が払わないといけないのでしょうか。

なるほど。これは不動産売買契約書の、危険負担に関する「引渡し前の滅失・毀損」の特約を確認する必要がありますね。

ん、何だか怖そうな言葉が……危険負担?

滅失・毀損:「滅失」とは、物理的に建物がなくなってしまったこと、全く使い物にならなくなってしまったことをいいます。「毀損」とは、一部が壊れてしまった状態をいいます。

そもそも「危険負担」とは?

不動産の取引では、契約の締結と引き渡しが同時に行われることはほぼありません。

一般的に、契約の締結から引き渡しまでに数週間~数か月かかることが多く、その間に物件が滅失・毀損する可能性がないとは言い切れません。
その原因が天災(地震、津波、豪雨などの自然災害等)による場合など、売り主・買い主のどちらにも責任がない場合に、どちらがリスクを負担するのか。これが、危険負担の問題です。

今回のママ友のように、大地震が起き、壁に亀裂が入ったときに、その修復費用を売り主と買い主のどちらが負担するのか、また被害がひどく住める状態ではなくなってしまったり、物件がなくなってしまったときに、売買代金を払わなければならないのかといった問題が出てきます。

この点、民法では、このような場合のリスクを買い主に負わせています(民法第534条1項)【※1】。

えー!?そんなぁ。買い主がリスクを負担するんですか?

アズサさん、落ち着いてください……。まだ続きがあります。

地震でマンションがなくなってしまったにもかかわらず、売り主に責任がないからといって、買い主が売買代金を支払わなければならないのは極めて不公平です。なので、この不公平を解消するために、不動産取引の実務では、基本的に売り主がリスクを負う以下のような特約を契約書に入れています。


契約書のココをチェックしよう!

不動産売買契約書(例)

特に注意して確認すべき箇所を、以下の赤字部分①~④で記載しています。


※1:この民法の規定は、改正され、2020年4月1日以降は、「危険負担」を売り主が負担することになります。買い主は、代金支払を拒絶することができるようになり(新法536条)、又、「買主への引渡後の目的物の滅失、損傷の場合は、買主は代金支払を拒むことができない」と明記(新法567条1項)されています。


この契約書では、地震などでマンション自体がなくなってしまったり、壊れて住めなくなってしまった場合、買い主は契約を解除でき、売買代金を支払う必要がありません。また、直すことができる場合は、売り主が修復費用を負担して物件を修復し引き渡すことになっています。

でも、それなら売り主にだって責任はないような……

そうなんです。売り主にも責任がないので、修復に時間がかかって引渡日に間に合わなくても買い主は損害賠償の請求はできず、修復にあまりに費用がかかるような場合は、売り主からも契約解除ができるようになっています。

なので、この契約例よりも買い主に不利な記載になっていたり、全く記載がない場合は要注意です!この特約がないということは、民法の規定通り、リスクは買い主負担になってしまいます。

なお、マンションの場合、共有部分(エレベーターや廊下、ごみ集積所、集会所、敷地等)は、区分所有者ひとりひとりで対応できず、費用負担や対応について管理組合による協議と合意が必要となるので、時間がかかる可能性があります。

また、マンション購入にあたって、ローンを組んでいる場合、いわゆるローン条項によって契約解除できる期限が過ぎた後に、地震等で担保物件であるマンションの価値が減少し融資額を減らされるといった可能性もあります。

注意ポイント①「天災地変その他売主又は買主のいずれの責にも帰すことのできない事由」とは


「天災地変」というのは、地震や豪雨などの自然災害ですね。では、他には、どんなことが「その他売主又は買主のいずれの責にも帰すことのできない事由」になるのでしょうか。


よく見られるのは、近隣での火事による類焼です。第三者の失火などの場合、天災地変ではありませんが、売り主の責任でも、買い主の責任でもない理由です。そのような理由で売買対象の不動産が被害を被ったわけですから、類焼した箇所の修復費用を誰が払うのか、契約は解除できるのかといった、危険負担の問題が出てきます。

この「天災地変その他売主又は買主のいずれの責にも帰すことのできない事由」が、「地震、豪雨で滅失・毀損した場合」といったように、限られた項目になっていないかチェックしましょう。

このように特定の項目だけが記載されている場合も、それは売り主・買い主いずれの責任にも該当しないものの例として挙げてあると解釈される可能性はあります。

しかし、裁判で白黒付けるようなことは避けたいもの。「天災地変その他売主又は買主のいずれの責にも帰すことのできない事由」のように広く規定し、後々もめないようにすることが重要です。

注意ポイント②「本物件の引渡し前に」物件が毀損したとき

この特約では「本物件の引渡し前に」物件が毀損したときは、売り主が修復して引き渡すと規定されていますが、引き渡しを受けた後になって、引き渡し前の原因で物件が毀損していることが分かった場合はどうなるのでしょうか?

この点、東日本大震災により引き渡し前に建物が傾斜し、そのことに売り主も買い主も気付かず引き渡したという事案では、「売主が修復義務を果たすことなく本件物件を引渡した場合にも、修復義務を負う」とした判決があります(東京地判平成25年1月16日)。

ですので、引き渡しを受けてしまったからと諦めず、売り主に修復をしっかり請求することが必要です。

注意ポイント③「標記の期日(C)」とは



この例文で(C)欄には、所有権が買い主に移転し、マンションが引き渡され(鍵の交付など)、登記の名義書き換えをする日が記載されています。この日は、「危険負担」が移転する重要な日でもあります。

引き渡しより前に、地震などでマンションの壁に亀裂が走って修復が必要になった場合、その修復に時間がかかって、当初の引き渡し期日((C)に記載の期日)を過ぎてしまっても、買い主は損害賠償を請求できません。

例えば、前の住居を既に売却していて、修復の間に宿泊費用が掛かってしまったとしても、その分を売り主に請求することはできないのです。

注意ポイント④「契約の目的が達せられないとき」どうなる?

修復を売り主にしてもらう場合、予想以上に何か月も時間がかかってしまったらいつまでも待たないといけないのでしょうか。

引渡延期の期間は、その修復にかかる合理的期間(現実的な期間)になりますので、必要以上に長い期間を要求される場合は、合理的期間となるよう要求したり、場合によっては「契約の目的を達することができない」として解除することも検討しましょう。

今回のポイント


  1. 契約書に「引渡し前の滅失・毀損」に関する規定があるか。
  2. 「引渡し前の滅失・毀損」については、売り主がリスクを負担する(修復義務を負っていたり、買い主からも契約解除できる)ようになっているか。
  3. 売り主が責任を負担する「引渡し前の滅失・毀損」の原因が、特定の事由に限定されていないか。
  4. 契約解除になった場合、受領済の売買代金など金員(金銭)を遅滞なく買い主に返還することになっているか。

監修:熊谷祐紀弁護士

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